夜のライトアップも美しい、落ち着いた旅館を彷彿させる住まい
自然素材を使った高断熱の家を求めて
手前には駐車スペースと芝生の庭。その奥には下屋があり、さらに奥に高さが異なる切妻屋根が連なっています。
「以前は中央区の借家に住んでいましたが、だんだんと物が増えて家の中が雑然とするようになりました。西側にリビングと寝室がある家で、毎年夏になると、西日で家の中が非常に暑くなっていたのも悩みでしたね。
寝室の壁の温度が35度近くになり、エアコンなしでは眠れません。でも、冷房を入れると冷たい風がベッドに当たるつくりだったので、冷房を入れても不快で熟睡ができません。それで、日当たりやパッシブデザインなどを考慮した断熱性能が高い家に興味を持つようになりました。それから、自然素材を使った家にしたいとも思っていましたね」とご主人。
それから2年ほどかけて土地探しを進め、かつて自然堤防だった地盤のいい70坪の土地を購入。中央区の利便性のいい場所でありながら、大通りから少し離れた静かな雰囲気も気に入ったそうです。
「はじめはハウスメーカーを見て回りましたが、なかなか断熱性能を数値で示してくれるところに出合えず、『高気密高断熱』や『自然素材』というキーワードで見つけたエシカルハウスさんを訪ねることにしました。
事務所に行ってみると、菅原さんは、断熱性能について数値を出した上で説明をしてくださいました。訪ねたのは3月でまだ寒い時期でしたが、併設のモデルハウス兼ご自宅は床下エアコンでとても暖かく、素足でも冷たくありません。塗り壁の落ち着いた雰囲気もいいなと思い、依頼することにしました」(ご主人)。
美しいそとん壁で仕上げられた外観
エシカルハウスでは、杉板を1階にそとん壁を2階に使うことが多いですが、Y邸では1階部分の正面が白いそとん壁。それによってアプローチは明るい雰囲気が漂っています。
「家の前を暗くしてしまうのが嫌でカーポートはあえて設置しませんでしたが、アプローチに軒がしっかりと出ているため、壁沿いを歩けば、雨が降っていても車と玄関の間をほとんど濡れずに行き来できます」とご主人。
アプローチの手前の壁に飾られているのはシーサーの顔。沖縄が好きなYさん夫婦は家の内外にシーサーを飾っています。
豆砂利洗い出し仕上げのアプローチを歩いて行くと、通りからの視線が届かない袖壁の奥に玄関ドアがありました。
高い断熱気密性能を持つ木製ドアは、雨が当たると表面が劣化しやすいという弱点があります。しかしこのドアは屋根と袖壁にしっかりと守られており、竣工後1年が経過してもドアには水染み一つありません。
上質な旅館を彷彿させる贅沢な客間
玄関にもご主人のこだわりが詰め込まれています。
ポーチと同じ洗い出し仕上げの土間に、浮造り加工が施された一枚板の式台。その下に仕込まれた間接照明が温かい雰囲気をつくり出しています。
格子戸を開ければ、その先には真っすぐ廊下が伸びており、奥には自然光がたっぷりと注ぐリビングが見えます。
一方、玄関ドアの左手にも土間が続いており、そちらは客間への入口。
客間の奥には旅館のような縁側があり、その向こうに庭が見えます。
一方、手前側を振り返れば、ポーチ脇の庭も眺められます。
家族が使うメインの空間から切り分けられた和室は離れのような空間で、ゲストが気兼ねせずに過ごすことができそうです。
職人の手仕事が随所に
正面の廊下沿いにはクローゼットがあり、右手に行けばトイレ・洗面・脱衣室・浴室が並ぶ水回りゾーン、その奥にはキッチンへと短い距離で行ける廊下があります。
ちょうど階段を中心にして複数の動線がつくられているのが分かります。
「廊下沿いのクローゼットには仕事着や鞄、部屋着や犬の散歩道具など頻繁に使うものを入れています」とご主人。
上の写真はリビング側から玄関を見たところで、間接照明を入れると一層落ち着いた雰囲気ができ上がります。ニッチがある壁はエシカルハウス定番の薩摩中霧島壁で、間接照明の光が塗り壁の表情を際立たせています。
玄関のそばにあるトイレも間接照明が使われており、リラックスムードたっぷり。ちょっとした小物を置けるライニングや造作のカウンター、手洗い器も備えられています。
その隣は洗面室。
既製品の洗面台ではなく、こちらも木やタイルをふんだんに使った造作。「この洗面台はエシカルハウスの小野さんと相談をしながらどのようなデザインにするかを決めていきました。隣の脱衣室とは、引き戸で仕切って分けられるようにしています」(奥様)。
作業性の高いキッチンから空間全体を見渡す
ゲストをもてなす旅館のようなしつらえが、あちらこちらに見られるのもYさんの家の魅力です。
その隣がキッチンへの入口。
少し狭まった通路の先に見えるのは、床と同じオーク材で仕上げられた造作カップボード。「大きな食器も立てて入れられるようにオーダーをして造って頂きました」と奥様。壁面はクラフト感のあるタイルで仕上げられています。
キッチンはクリナップのフラッグシップ「セントロ」。天板は頑丈で美しいフォルテックスワークトップが使われています。
そして、キッチンの先は少し天井高が抑えられたダイニング。
キッチンに立つとダイニングにリビング、その先にある軒が架かったウッドデッキや庭までを眺められます。「キッチンの動線がいいですし、食事を出すのも横に移動するだけなので楽ですね」(奥様)。
UA値0.26の断熱性能で寒さを感じない暮らし
リビングには3人掛けのゆったりしたレザーソファが置かれ、南側の吹き抜けから心地いい自然光が降り注ぎます。
「この庭を眺めながら過ごせるのがいいですね。デッキで焼肉を食べたり、夕方に庭を眺めながらビールを飲む時間も楽しみになっています」とご主人。
ダイニング側の壁にはキャビネットや吊り棚が造作されており、収納量もたっぷり。元々お持ちだったワインセラーを置くスペースも考えられた設計です。
キャビネットにはエシカルハウスがいつも採用している床下エアコンが隠されていて、冬場はそのエアコン1台で家じゅうを暖められます。
「前住んでいた借家は冬とても寒くて、夜中にストーブをつけたりもしていました。今は床下エアコンの温度を21~22℃設定にして冬を快適に過ごしています。4月に入ると無暖房で過ごしますが、室温は20℃前後で一定に保たれますね」とご主人。
断熱の仕様は、天井にセルロースファイバー300mm、外壁に高性能グラスウール210mm(充填断熱105mm+付加断熱105mm)、基礎の外周に防蟻ポリスチレンフォーム80mm、さらに内側も発泡ウレタンでしっかり断熱。地面からの熱損失も抑えるため、土間下も防蟻ポリスチレンフォームで覆っています。
断熱性能を示すUA値は0.26でHEAT20G2基準(UA値0.34)を余裕でクリアする数値。さらに、効率的に日射取得ができる窓の選定と配置で、冬場の暖房費を抑える工夫がなされています。また、換気には熱交換型の第1種換気システムを採用しており、換気時の熱損失を抑えるとともに、湿度も調整されているのだそうです。
お酒が並ぶバーコーナーがある2階へ
床材は1階のオークから一変し、杉板の無垢材に。赤身と白太が入り混じった表情豊かな木目とやわらかい足触りが特徴です。
階段を上がってすぐ左手はご主人の趣味スペース。
壁にはブドウの絵が入った華やかなステンドグラスがはめられています。こちらのステンドグラスは元々お持ちだったものを入れてもらったのだそうです。
階段の右手は吹き抜けに面したホールがあり、ここに洗濯物を干しておくと、冬場は1階から上昇してくる暖気で、とてもよく乾くのだそう。
夏場はこのホールに設置されたエアコンで冷房を行いますが、ちょうど冷房の風が洗濯物に当たり、夏場の乾きもいいそうです。「夏は冷房の温度を25.5℃設定にしてつけっぱなしにしています。家に帰ってくるといつもひんやりしていて、湿度もちょうどよく過ごしやすいですね」(ご主人)。
また、ホールの一角にはバーコーナーを設けるなど、遊び心も加えています。
ホールに面した寝室は9畳とゆったりとした広さで、ライニングに仕込まれた間接照明と2つのスタンドライトが居心地のいい雰囲気を演出。
東側に設けられた窓から朝日が入り、朝は気持ちよく目が覚めるといいます。
ところで、ホールの一角に造作された本棚を見ると、国内外の旅行ガイドブックがずらりと並んでいました。
「旅行が好きで、いろいろな地域に出掛けてきました。ハワイに行くと自然と調和してゆったりできますし、ヨーロッパに行けば物を大事にして長く使う文化に触れられます。そのような価値観は、私たちの家づくりにも自然と現れていたかもしれません」とご主人。
ライトアップされた美しい夜のアプローチ
壁には絵画や旅先で買ったタペストリーが飾られ、回遊できる廊下をワンちゃんが走り回るYさん夫婦の住まい。
「自然素材を使った空間や造作家具など、オーダーメードでつくれる部分が多かったです。工業製品ではなく工芸品のような家ができ上がりました。あと、夜の庭の雰囲気もすごく好きです」とご主人。
日が暮れて徐々に空が暗さを増していくと、外構に仕込まれた照明の光が際立ち始めました。
そとん壁や洗い出し仕上げの土間、石や植物が、ライトアップによって昼間とは異なる表情に変わっていきます。
旅先の特別な宿に辿り着いた時のような高揚感を与えてくれる夕暮れのアプローチ。そして、扉を開いた先もまた、間接照明が彩る非日常空間が広がります。
快適な温熱環境を高いレベルで実現しつつ、心地いい庭や自然素材に包まれる暮らしを叶えたYさん夫婦。「以前住んでいた借家と比べて広さにも余裕ができ、ワンランク上の生活になったと感じています」(ご主人)。
Y邸
新潟市中央区
延床面積 40.66坪
竣工年月 2023年5月
設計・施工 エシカルハウス 株式会社菅原建築設計事務所
写真・文/Daily Lives Niigata 鈴木亮平